連載小説「ウイニングアンサー」第12回(次回で完結)

クイズ芸人小説「ウイニングアンサー」 第12回 2018・11・27発表
作:渡辺 公恵(わたなべ きみえ( or こうけい))

※この作品はフィクションです。実在の人物、番組、設定などとは一切関係ありません。よって、現段階で、だれのモデルが実在のだれかはあまり詮索しないでください(笑)

(あらすじ)中学生にしてクイズ芸人の「俺」こと風烈布伶佐が新チームで春のスペシャル番組に出演! チームはついに決勝戦に進出、ウイニングアンサーは間近!!
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(主要登場人物)
(チーム『もがみがよシスターズ』正規メンバー)
風烈布 伶佐(ふうれっぷ れいさ) 主人公 中学1年 男?
音標 七絵(おとしべ ななえ) 中学2年 女
山碓 なる(やまうす なる) 高校3年 女
乙忠部 麻衣(おっちゅうべ まい) 大学2年 女
岡島 静香(おかしま しずか) 社会人 女

(『もがみがよシスターズ』エキストラメンバー)
問牧 智和(といまき ともかず) 中学2年 男
目梨泊 猶人(めなしどまり なおと) 高校1年 男

(ライバル若手チーム『セブンぺたどる』)
栄丘 和実(さかえおか かずみ) 大学1年 女
鷹泊 早紀(たかどまり さき) 大学2年 女
新富 史緒里(しんとみ しおり) 社会人 女
蕗野 弥生(ふきの やよい)中学2年 女

(ライバル大人チーム『ゴールデンアタック』)
小向 芳子(こむかい よしこ) 女
下川 春菜(しもかわ はるな) 女?
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(現在のスコア)
もがみがよシスターズ
Aペア 0ポイント
岡島 静香・乙忠部 麻衣

Bペア 0ポイント
音標 七絵・風烈布 伶佐

セブンぺたどる
Aペア 1ポイント
鷹泊 早紀・栄丘 和実

Bペア 1ポイント
新富 史緒里・蕗野 弥生
(いずれのペアも、左が先に押すメンバー)

決勝戦、二人羽織早押しクイズが始まった。
『もがみがよ』Aペアは静香が押して麻衣が答える、Bペアは俺が押して七絵が答える組み合わせだ。押すほうが前、答えるほうが後ろの席になる。
『第1問まいります……問題。お寺のマークである「卍(まんじ)」/』
この位置で、静香が押した。麻衣は……いけるという顔。
「六画!」
ピンポーン!
『『もがみがよ』Aペアが正解! 「卍」は画数が何画の漢字? という問題でした!』
やった、麻衣が答えた。『もがみがよ』Aペアに1ポイント。
今度は麻衣が押す番になる。

『問題。サンスクリット語で「ほうじょう/』
麻衣が押すと、静香が待ちかまえていたように答える。
「アンナプルナ!」
『交代してもお見事! 問題は『サンスクリット語で「豊穣の女神」という意味の、4つの峰からなり、8091メートルの最高峰は人類が初登頂した8000メートル峰である、ヒマラヤ山脈の山は何?』でした!』
さすが静香はこういうベタ問には強い。麻衣の押すタイミングも絶妙だ。

問題が読まれてからは相談はナシというルールだけど、早押しクイズの心得があれば押せるポイントで押してくれれば、確実に答えることができる。麻衣と静香は、そういう理想的な関係に見えた。

俺たち『もがみがよ』はAペア2ポイント。『セブンぺたどる』はアドバンテージで両ペアに1ポイントずつ入っているので、これで両チームがスタートラインに並んだことになる。

『問題。後ろ向きにコイ/』
えっ、ゆうべの合宿で対策したあの問題!
反射的に指が動いた。
ベタ問のポイントとしてはこれでも遅いくらいだけど、俺の前のボタンがついた。ラッキー!
さあ七絵! 答えられるか? 背後から荒い息の音。
「コロ……トレヴィの泉!」
ピンポーン!
やった! 「コロッセオ」と迷ったのはあのときと同じだけど、しっかり正解してくれた。正誤判定が甘いのも助かった。
『『もがみがよ』Bペアもポイント獲得! 音標七絵、よくこれだけでわかった!』
「ありがとうございます!」
司会者の絶賛に、大きなお辞儀で答える七絵。
「すごい! こんどは押すのも頼むぞ!」
「もちろんです!」
俺は七絵とハイタッチしながら、後ろの席にまわった。

『もがみがよ』が3対2と逆転。ところがここから、『セブンぺたどる』も調子を上げてきた。
Bペア新富さん、Aペア鷹泊さんが次々と正解する。Aペアは交代した和実も正解。
Bペアが蕗野さんの押す番になれば、ブレーキになるかな、と思っていると、しっかり押してきて、新富さんが正解する。
うちもAペアはどんどん答えている。むしろブレーキはこちらの七絵じゃないか? どうした!?

ペアの相手をアシストするのは俺の性に合わない。
合宿のとき、俺はそんなことを言っていたはず。
でも実際は、そんな次元じゃなかった。

「間違えても1問休みなだけだから、どんどん押してくれ!」
背後から七絵をあおる。
『問題。ボウリングでこれをやるとスコアが200点になる、ストライクとスペアを交互に/』
ボタンがつかない。
『……「ダッチマン」でした!』

「答えにつながりそうな言葉が出たら押して!」
『問題。縁起を担ぐ場面では「有りの/』
ボタンがつかない。
『……「有りの実」と呼ばれる果物はなに? という問題。答えは「梨」でした!』

「出題者が変わった言葉を口に出したら押す!」
『問題。歴代の日本の総理大臣の中で、唯一こ/』
ボタンがつかない。
『……唯一皇族として総理大臣になったのはだれ? という問題。答えは「東久邇宮稔彦王』でした!』

押してだめなら……。
問題の合間、俺は前に手を差し出す。
「気合い入れに、少しだけ手をつないでみないか?」
「……はい」
ほんの一瞬だけど、七絵の手を後ろに軽く引いてみた。何かあたたかいものが伝わった気がした。
「これでよし!」

それでも七絵のボタンはつかない。
「申し訳ありません! これでも押してるんですよぉー!」
そんな七絵の泣き出しそうな顔が、しっかりカメラに拾われている。

けれども安心感はあった。麻衣と静香のAペアががんばってくれたから。
『セブンぺたどる』Aペア4ポイント、Bペア3ポイント。『もがみがよシスターズ』Aペア8ポイント、Bペア1ポイント。あと1ポイントで俺たちの勝利だ。
「こうなったら、うちらだけで9ポイント取っちゃうから! たのむよ静香!」
麻衣はそう言い張る。
「お願い岡島さん!」
七絵も静香に頼る気だ。そしても俺もそうなりかけていた……が。
『問題。安土桃山時代、加藤清正が朝鮮半島から持ち帰ったため/』
「ニンジン!」
ブーッ!
ああ、麻衣が間違えた。
『惜しい! 『加藤清正が朝鮮半島から持ち帰ったため「キヨマサニンジン」とも呼ばれるセリ科の野菜は何?』という問題でした』
「勘違いしてた! ごめん!」
『正解はセロリでした』
セリ科の野菜までは合っていただけに、もったいない。ニンジンは江戸時代に日本に入ってきたらしい。
それっきり、静香の指が遅くなった。あと1ポイントなのに。
ペナルティは軽いけれども、間違えると気力は落ちるものだ。

『セブンぺたどる』Aペアがそこから着々とポイントを増やしていく。
『問題。別名を「キツネノテブクロ」/』
「ジキタリス!」
『鷹泊早紀、見事な正解! 『別名を「キツネノテブクロ」といい、ラテン語の「指」が語源となっており、かつては強心剤としても用いられた、オオバコ科の植物は何?』という問題でした』
ああ、いい問題をとられてしまった。
『これで『セブンぺたどる』は両ペア合計で9ポイント、『もがみがよ』と同点に並びました!』
やっぱり、Aペアに頼ってばかりではいられない。
司会者さんがちらちらと俺たちの顔を見る。「答えてくれよ」といわんばかりに。

『さあ、次が最後の問題になるのか? どのチームも必死です』
俺は七絵の背後で叫んだ。
「もうなんでもいい。ワンフレーズ読んだら押す!」
『問題。旧ソ連の共和国、/』
そこで、目の前のボタンが点いた。
七絵が本当にワンフレーズで押したら、解答権が得られたのだ。
俺が答える場面だ。
でも、どうする!? タイミングが早すぎる。
「旧ソ連の共和国」を読み上げてひと息ついている。だから、何かを列挙するように思えるけど……絞りきれない。
七絵は背後の俺をじっと見ている。
もう、とにかく何か言うしかない。旧ソ連の15の共和国のうち、最近注目されてるあの国で!
「……ジョージア!」
俺の声がスタジオに響いた。
一瞬の静寂。最終問題だと長く感じる。いや、本当に演出上「溜め」をつくっているのか? それは今の俺にはわからないが。
ピンポンピンポーン!

『驚いた、あれだけで正解です! チャレンジクイズ挑戦権は『もがみがよシスターズ』! ウイニングアンサーを決めたのは、沈黙を保っていたBペアでした! 問題は、『旧ソ連の共和国、アメリカの州、日本の缶コーヒーのブランドに共通する名前は何?』でした!』
無茶なダイブだったかもしれない。でも少しは勝算があった。
旧ソ連のジョージアは、前はグルジアだったけど最近国名を変えたから、クイズをやる人間には注目される国なのだ。

「いやあ、Bペアの君たち、やるねえ!」
司会者さんが、解答席の俺たちに駆け寄ってきた。俺も七絵も自然と顔がほころぶ。
でも司会者さんの意図は別のところにあったらしい。
「じゃーん! これを見よ!」
声とともに、正面の大モニターに映ったもの。それは、さっき七絵と俺が前と後の回答席で、こっそり手をつないでいたシーンの動画だった。
「伶佐くんの指が七絵さんの指に触れて、なんとなーく、いい感じになってましたよ!」
「そっ、それは!」
俺はなんだかパニック状態で、体が勝手に踊り出す。
「あくまで、気合い入れでっ!」
七絵は赤面しながら答えるも、体はフリーズ。
「だったら、伶佐くんは私が!」
思わぬ声が聞こえた。
隣の解答席から、元は身内だった栄丘和実が駆け寄ってきて、俺の右腕を手でつかんだのだ。
「レイさんは渡しません!」
七絵は俺の左腕を強く引っ張る。
「うわあっ、両手に花ですね! さすがレイちゃん!」
司会者さんが目をまるくしながら煽ると。
「レイちゃんは俺がいただく!」
「いや、僕だ! あのジョージアはわかってたからな!」
控え席から、エキストラメンバーの猶人と智和まで飛び出して、俺に駆け寄ってきた。
ちょっと待て、おまえら、和実に気があったんじゃなかったか?
というか、俺の男としての尊厳は!?
「だったら私も!」
大人チームの下川春菜さん、小向芳子さんまでこっちにやってきて、俺をもみくちゃに。
「勝負が終わればノーサイド。みなさん、『もがみがよシスターズ』の勝利を祝福しています!」
司会者さんの取り繕うようなコメントとともに、収録が止まった。

§

十数分の小休止の後、優勝した俺たちのチャレンジクイズが始まる。
決勝では控え席にいたなると、エキストラメンバー2人を含めて7人での解答だ。
先日の『おQ様!』での古代ローマ皇帝の一件があったので、安全のため七絵はラストにまわった。
控え席から、『セブンぺたどる』、大人チーム『ゴールデンアタック』のメンバーが見守っているけど、なんだか、俺への視線が多いような気がしてならない。

解答者席の前に7人が集まる。七絵が音頭をとった。
「輪になって、隣の人と手をつなぎましょう。きっと力が湧いてきます」
静かに手をつなぐ気合い入れ。初体験の猶人と智和が、俺の両手をそれぞれ握る。
男どうしなのに、さっきの一件のせいで、なんだか変な気分だった。でもすぐにそれは消し飛んだ。
「なつくさや、となりはなにを……もがみがよ」
7人のささやき声が重なると、“みんなのレイちゃん”としての自覚となって、あらためて俺の中に流れ込んでいった。

「さあ、制限時間は1分! 7人になった『もがみがよシスターズ』への賞品チャレンジクイズはこちらです!」
効果音とともに、正面の大きなモニターに映し出された文字は……!
『世界遺産になった京都の建造物』
(最終回(第13回)に続く)

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