連載小説「ウイニングアンサー」第1回

クイズ芸人小説「ウイニングアンサー」

 第1回

 2017・10・4発表

作:渡辺 公恵

 (わたなべ きみえ( or こうけい))

※この作品はフィクションです。実在の人物、番組、設定などとは一切関係ありません。よって、現段階で、だれのモデルが実在のだれかはあまり詮索しないでください(笑)
※8月13日に行われた「クイズの博物館」に展示したものを元に、一部内容を変更しております。

「『私はその人を先生と』/」
ポーン!
一問目から早い……岡島(おかしま)さん! 早すぎじゃ?
いや、押された今なら俺にもわかる。卓志(たくし)も猶人(なおと)も同じ顔。これはあのパターンだと。
岡島さんはすまし顔で軽く息を吸って、そこからよく通る一声で。
「『こころ』!」
正解音! 思った通り、文学イントロ問題だ。
「大人チームゲストの岡島静香(おかしま しずか)さん、レディーファースト、一人目の勝ち抜けです!」
解答者席全体から拍手が湧き上がった。もちろん俺も手をたたく。
勝ち抜け者が出たら敵チームでも拍手を送る。これが『おQ様!』に限らずクイズ番組出演者の約束だ。
でもそれだけでなく、今のはまさに絶妙のタイミングでの押しだった。拍手は当然だ。

「問題。わだば/」
ポーン!
えっ? よく聞こえないうちに押した! 矢文(やぶみ)さん!
「棟方志功!」
ああそうか、「わだばゴッホになる」か。「なぜ山」よりも確定ポイントが早いとは。
かくして、またもや大人チームのゲストさんが抜けた。

「問題。長年にわたってベートーヴェンのパトロンとなり、彼のピアノソナタ第21番にその名を残す、オーストリア出身の貴族はだれでしょう?」
「ワルトシュタイン!」
初めて最後まで問題が読まれた。これは知らないと答えられない問題だけど、一ノ橋修(いちのはし おさむ)さんが余裕を見せて抜けた。
「ここまで三連続で大人チームゲストが抜けました。どうした若者チーム!」
司会のオサマーズさんが煽ってくる。でも、この決勝早抜けクイズはゲストさんを立てて早く抜けさせるのが不文律。オサマーズさんの煽りも、ここまで力をセーブしていたレギュラーさんたちが本気を出す合図なのだ。
もっとも、俺はさっきの三問は全力なのに答えられてない。スタジオのライトを浴びるようになって三ヶ月経つけど、早押しではまだまだ地面に足がついてない感がある。

「問題。救急車が/」
山軽充(やまかる みつる)さんが押した! 大人レギュラーチーム『アタックチャンス』のエース。
「リスポンスタイム!」
自信満々に答えた。俺も正解だと思った。けどブザーが鳴った。よく考えればもうひとつ答えがある(理系的にはそっちのほうが思いつきやすいと、後で正次が教えてくれた)。
でもそれで間違えるのが山軽さんらしい。得意ジャンルと不得意ジャンルがはっきり分かれてる。焦って生物ジャンル以外で押したのが敗因か。
「みなさん、まだボタンから手を離さないで!」
司会アシスタントの優華さんが注意する。このクイズは不正解者が出ても他の解答者がボタンを押せるのだ。タイミングは、オサマーズさんのこの声。
「解答権、リリース!」
四方八方からドンドンとボタンを押す音。というか俺も押したけど、ランプが点いたのは……麻衣!
「若者チームが初の解答権! 乙忠部(おっちゅうべ)さん、答えは!」
「ドップラー効果!」
「お見事! 『Q&QT(キューアンドキューティー)』乙忠部麻衣(おっちゅうべ まい)、若者チームの一抜け!」
やったあ! 俺も本気の拍手で応える。麻衣はときどき感情が高ぶるけど、さすが現役灯大生!

『おQ様!』の対戦形式は回によってまちまちだけど、今回は大人チーム10人と若者チーム10人の対抗戦。大人チームはレギュラーユニット『アタックチャンス』の5人にゲストが5人。若者チームは男子5人ユニット『ラッキー☆アイランド』と女子5人ユニット『Q&QT』の合同で、もちろん俺は『ラッキー☆アイランド』の一員だ。
番組中のクイズ形式は、言葉穴埋めクイズや映像クイズなどバラエティに富んでいるけど、決勝は真剣度の高い早押し形式がお約束。

「問題。チームの中で、ほかのプレイヤーとは異なる/」
押したのは大人チームゲストのモーベツ・ロバートソンさん。でも今の押し方は……。
「ゴールキーパー!」
なるほどユニフォームか、と思いきやブザー。解答権リリース。でもだれもボタンを押してこない。俺も押せない。
「では、もう一度問題を読み上げます。チームの中で、ほかのプレイヤーとは異なる色のユニフォームを着ている、バ/」
「リベロ! ひらめいたぜ!」
大人チームレギュラーの浅茅野(あさかやの)さんが押した。正解だ。そうか、サッカーではなくバレーボールってことか。
バレーボールのリベロはレシーブの専門家だけど、今の答え方は典型的なアシストプレーだ。
早押しに弱いチームメイトに思考時間を与えるために、指の早い解答者がボタンを押してわざと不正解する。そして解答権リリースでチームメイトに答えさせるのだ。
不正解はその問題の解答権を失うだけ(次の問題は解答権あり)だから、こんな連係プレーが可能になる……っていうんだけど。

「問題。もともとは聖書の一節で、神の言葉はこれよりも鋭い/」
大人チームの紅一点、小向芳子(こむかい よしこ)さんが押した。
「冷酒!」
ブザー。親の言葉か何かと勘違いしたような。解答権リリース! でも俺にはまだ答えがわからない。押したのは若者、イケメンの頓別正次(とんべつ まさつぐ)だ。
「若者、頓別!」
「両刃の剣!」
正解だった!
「もともと、『神の言葉は両刃の剣よりも鋭い』という言い方で使われていたのが、いつの間にか意味が変わってしまったんですよ」
そんな解説が嫌味に聞こえないあたりも正次らしさ。これで若者もふたり抜け。
でも、アシストなんて、今のように敵に利益を与えることもある、まさに現在の意味での両刃の剣なんだよな。というか成功率のほうが低いんじゃ?
いまアシストを決めた正次に嫉妬してるんじゃないぞ。俺の前からの持論だ。味方の不正解問題を拾えたことを、後づけでアシストと呼んでるだけじゃないかって。でもそれは表じゃ言えないこと。

ここまで抜けたのは、大人チームが岡島静香さん、矢文琢郎さん、一ノ橋修さん、浅茅野輝(あさかやの ひかる)さんの4人。俺たち若者チームが乙忠部麻衣と頓別正次のふたり。これ以上リードを広げられるとまずい。
「さて小向さん、ここらで若者を突き放したいところですね」
「ええ。……ねえチームリーダーさん、次の問題、お返しで私にアシストしてくれる?」
「どうも。考えておきます」
オサマーズさんから話を振られた小向さんがカメラ越しに、若者チームのリーダー・斜内卓志(しゃない たくし)に目配せする。
卓志のほうも、「ご指名ありがとうございます」と言いたげなホストみたいな応対。正次ほどじゃないけどこいつもイケメンだ。
この受け答えも演出のうちだ。卓志が女ったらしなのは地だけど。
「さあ、愛をとるか勝ちをとるか!」
オサマーズさんが煽ったところで次の問題だ。

「問題。冬季オリンピックの正式競技の中で、ソリを使ったもの/」
「スケルトン!」
押したのは小向さん。そしてあっさり自分で勝ちをとった。ソリを使った競技は3つあるけど、知名度の差を考えれば、答えになるのはボブスレーやリュージュよりこっちだよな。
小向さんが大人の素振りでバイバイと手を振りながら勝ち抜け者席へと去っていくと、がっくり肩を落とす卓志がモニターに大映しになる。ここまでがお約束なのだ。

「問題。海に生えるが花を咲かせる植物、アマモ/」
「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ!」
山軽さんが一息で言い切る。数秒の間をおいてチャイムが鳴る。得意の生物問題で今度は鮮やかな正解ぶり。スタジオ全体から拍手が飛んだ。俺もこんな正解を決めてみたいなあ。

「問題。バッシュフル、スニージー、グラン/」
「『白雪姫』!」
モーベツさんも抜けた。俺には何を言っているのかわからない前ふりだった(ディズニー映画『白雪姫』の7人のこびとの名前だそうだ)けど、それで答えがわかるとは、さすがアメリカ育ち。
「3人連続で大人が抜けて、7対2! しかも大人はエース松音知(まつねしり)を温存して余裕の態勢。若者チーム絶体絶命か!?」

「問題。アニメ『鉄腕アトム』を見たことがきっかけで、手塚治虫に自らのSF映画の美術監督を依頼したといわれ/」
わからない。有名な映画監督のだれかか。黒澤明? スピルバーグ? 押したのは猶人だ!
「キューブリック!」
「正解! 目梨泊猶人(めなしどまり なおと)さん、ご存じか!」
「『2001年宇宙の旅』のときのことなんです。手塚先生のところにキューブリックから手紙が来たんですよ。新作SF映画をつくるから美術監督をやってくれと言われて、引き受けてアメリカに行っちゃったら虫プロの100人のスタッフを食べさせていけなくなるって断ったら、キューブリックが、さすが東洋人は大家族だなって誤解して」
オサマーズさんが振ると、猶人は滔々と語る。
若者チームも3人目が抜けた! 俺も全力で喜びのポーズをとると、すぐさまカメラが抜いてきた。そうだよな、こうやって目立たなくちゃ!

「問題。寿命がおよそ一年であることから、漢字では年の魚と/」
「アユ!」
問牧智和(といまき ともかず)が押した! 得意の漢字問題をしっかり正解すると、司会者席からも拍手が飛んだ。智和の持ち芸、往年俳優の顔まねがモニターにきっちり決まった。

「問題。1982年は『北酒場』、翌83年は『矢切の渡し』で/」
またもや若者が押した。女子ふたりめ、山碓なる(やまうす なる)。
「細川たかしさん!」
史上初のレコード大賞2年連続受賞者、芸能史の問題で正解だ。存命の人物名を答えるときに「さん」付けをするのも好印象。勝ち抜け者席の智和とハイタッチ。
「いいぞ若者、反撃態勢だ! これで大人7人、若者5人抜けです!」
チームメイトの正解に、俺は心からの拍手を送っていたけれど、不満の声も聞こえる。
「なんでアシストしないんだ。早押しでは勝てない子たちを先に抜けさせてやるのが戦術だし、礼儀だろう」
俺の真下の解答席から、卓志の小声が聞こえた。マイクにも拾われるくらいの声だ(おそらく放送ではカットされるだろうけど)。

「問題。日本には讃美歌『グリーンヴィル』として伝わり、唱歌『見渡せば』としても知られた曲で、元は18世紀に作曲されたオペラ『村の占い師』/」
卓志が押した。チームメイトの栄丘和実(さかえおか かずみ)と音標七絵(おとしべ ななえ)に目を向けながら。こいつは態度に出る、というか芸風として意識して出している。
「『むすんでひらいて』!」
不正解。解答権リリース直後、和実のランプが点いた。
「ジャン・ジャック・ルソー!」
見事に正解。
この手の問題でタイトルが不正解なら、正解は作曲者名と相場が決まってるから、解答権リリースのアシストには好都合だ。
前振りでいくつか曲の別名を挙げてる問題文だから、曲名の中でいちばんポピュラーなものを答えさせるほうが自然かもしれない。でも、この問題の場合は作曲者が思想家という別ジャンルでの有名人だから、作曲者名を答えさせることにも意義があるのだ。
卓志が和実にハイタッチの手を向けるも、和実は背を向けたまま勝ち抜け者席へ歩いていった。それでもめげない卓志は俺に振り向いて「アシストはこうやるんだ!」と親指を立てるけど、動揺の態度がありありと見える。

「さあ、残る解答者は7人となりました!」
舞台セットの周囲が暗くなり、テンションの高いBGMが流れる中、オサマーズさんが残りのメンバーを紹介する。
大人チームが松音知文規(まつねしり ふみのり)さん、小石吉純(こいし よしずみ)さん、サルル・グランローブさんの3人。強い松音知さんはアシスト要員だろうけど、あとの2人は失礼ながら予想通り。
若者チームは4人。卓志、沢木奈々未(さわき ななみ)、七絵、そして俺。俺がこれまで沈黙を保っていたのは、もちろんリーダー卓志からアシスト要員の任を仰せつかってのことである。
「さて斜内さん。若者チームも調子が向いてきたけど、ここらで逆転をねらってみない?」
「そうですね……」
オサマーズさんが卓志に話を振ると、勝ち抜け者席の小向さんから声が飛ぶ。
「たくしくーん、正解しないで」
サルルさんと小石さんに敵からアシストしてほしいのだろう。
「あのなあ! 俺を当てにしてないの?」
松音知さんが突如席から立ち上がって小向さんをにらみつける。
「まあまあ、ふみのりさんには、早く正解してほしいんです」
「そ、それもそうだな」
後で聞いた話だと、松音知さん、ちょっとスランプ気味だったらしい。

「問題。実現がまず不可能なことをあてもなく待ち続けることをひゃ/」
俺の指も動いたけれど、ランプが点いたのは卓志だ。問題文の続きが聞こえて、少々たじろいだ様子。小向さんが見守る中、制限時間の5秒ギリギリまで引っ張る。
「……黄河!」
小向さんががっくり椅子にもたれこむ。わざとらしい間をおいて、正解のチャイムが鳴った。
「百年『何』を待つという?」という問題文も考えられるけど、ここは「『百年河清を待つ』といいますが、この『か(河)』とは中国のどこの川?」のほうがクイズ的にきれいだよな。問題の読みが早口だったのも、後に続く文が長いからと想像できる。さすが、卓志も小向さんもそこまでわかってた。
勝ち抜け者席に向かった卓志は、今度こそ和実とハイタッチしようとするも、うまく当たらずに終わる。おまけに小向さんからも嫌われた。
「やっぱり若い子がいいのね、ふんっ」
そこまできれいに決めるあたりが、年の功だなと感じた中一の俺。

「問題。地図記号で二重丸といえばしや/」
「特別区の区役所!」
松音知さんが押してブザー。今のは答えが苦しいし、タイミングも早すぎるからアシストねらい。もう少し問題文を聞かないと俺には押せない。
解答権リリース、直後に小石さんが押した。
「くもり!」
正解だった(天気記号の二重丸へのパラレルだった)。そういえば気象関係は小石さんの得意分野。松音知さんはそこまで見抜いて、わざと不正解してアシストしたのかも。

「問題。カブトガニ、ニホンイモリ/」
「絶滅危惧種!」
また松音知さんが押したがブザー。同時に正解に気づいた様子。
「あーっ!」
松音知さんが頭を抱える中、解答権リリース。だれも押さないので再び問題が読み上げられる。
「カブトガニ、ニホンイモリ、ヒョウモンダコ、スベスベマンジュウガニ、ツムギハゼ、フグ/」
ここでみんなの指が動いた。俺も押した。ランプは……若者チームの奈々未だ!
「テトロドトキシン?」
フグまで出たのに自信なさげとは。でも、解答者最年少の小学6年生だからそれも愛嬌。
優華さんに「足元に気をつけて!」と言われながら、正解のピンポンと共に勝ち抜け者席へと小走りしていった。

「問題。初夢で見ると縁起が良い/」
松音知さんが押した。まだアシストか? いや今度は取りにいった。
「なすび!」
一富士、二鷹ときて、名数問題的にはこれが正解だろう。と思ったのにブザー。
解答権リリースと同時にボタン音がした。点いたのは……七絵!? まさか。
「一姫二太郎!」
なるほど。「生まれてくる子どもの順番で縁起が良い」と続くと読んで、「一」と「二」がくる言葉のパラレルを予想したのか。七絵がここまでセオリーを身につけるとは驚きだ。
だがこれも無情のブザー。
咄嗟に俺は思い出した。まさかこれじゃ? いや、これだろう。
押した、点いた、叫んだ!
「扇!」
どこかで聞いたことがあった。一富士、二鷹、三なすびの次、四は扇だという(ついでに五はたばこ、六は座頭だけど、今回はそこまで深読みはしなかった)。
今までのだれの正解のときよりも大きい音で、ピンポン音が鳴り響いた。俺は思いっきり昇竜拳を突き上げた。
「やったあ、風烈布伶佐(ふうれっぷ れいさ)さん、ついに勝ち抜け! 若者チームは残り一人!」
「天井の照明は壊さないでください!」
このセリフも優華さんのお約束。スタジオの天井の高さは何メートルもあるから、いくら178センチの俺でも届くわけがない。
「ナイスアシスト、七絵!」
そんな背丈の差をものともせず、俺の右手が七絵の左手ときれいにヒット。『Q&QT』との合同チームは前にも経験あるけど、彼女とのハイタッチはこれが初めてだった。
されてみて、はじめてわかった。
アシストってほんとうにあるのかもしれない。右手のひらに余韻を感じながら、俺はそう思った。作戦的には俺がアシストされるのは失敗だ。でも、そんなことはどうでもよいと思わせる空気だった。

「問題。シェーンベルクは交響詩、ドビュッシーはオペラ、シベリウスとフォーレは劇付随音楽/」
「『ペレアスとメリザンド』!」(問題の続きは、「それらの原作となったメーテルリンクの戯曲、共通するタイトルは何?」)
松音知さん向けとしか思えない連続難問も、本人が勝ち抜けたことで打ち止めだろう。

残るは大人チームのサルルさんと若者チームの七絵の一騎打ち。知識量は似たようなものだけど、場数を踏んでいる分サルルさん有利か。でも、根拠はないけど……。
「第5ラウンドまでのスコアは、大人250ポイント、若者220ポイント。この最終ラウンドは相手の残り人数かける10ポイントと勝利ボーナス50ポイントが加算されますから……最後に抜けたチームが優勝です!」
そんなことは決勝開始時点でわかってたけど……とにかく運命の一問。おそらく難易度は下がるはず。

「問題。ベークド、マッシュ、ジャーマン。これらの言葉の後ろに共通してついて、料理の名前になる言葉/」
七絵のランプが点いた。サルルさんも押していたらしく、観念のバンザイポーズ。
「えーと……ポテト!」
「やりました、若者チーム逆転優勝! 最終クイズへの挑戦権獲得です!」
見事なウイニングアンサーだった。席から立ち上がり、「ありがとうございます」と何度も勝ち抜け者席にお辞儀をする七絵に、俺も手のひらが真っ赤になるまで拍手を送った。

抜け順 名前 所属 スコア(大人-若者)
1 岡島 静香(大人チーム・ゲスト) 9-10
2 矢文 琢郎(大人チーム・ゲスト) 8-10
3 一ノ橋 修(大人チーム・ゲスト) 7-10
4 乙忠部 麻衣(若者チーム・Q&QT) 7-9
5 浅茅野 輝(大人チーム・アタックチャンス) 6-9
6 頓別 正次(若者チーム・ラッキー☆アイランド) 6-8
7 小向 芳子(大人チーム・アタックチャンス) 5-8
8 山軽 充(大人チーム・アタックチャンス) 4-8
9 モーベツ・ロバートソン(大人チーム・ゲスト) 3-8
10 目梨泊 猶人(若者チーム・ラッキー☆アイランド) 3-7
11 問牧 智和(若者チーム・ラッキー☆アイランド) 3-6
12 山碓 なる(若者チーム・Q&QT) 3-5
13 栄島 和実(若者チーム・Q&QT) 3-4
14 斜内 卓志(若者チーム・ラッキー☆アイランド) 3-3
15 小石 吉純(大人チーム・アタックチャンス) 2-3
16 沢木 奈々未(若者チーム・Q&QT) 2-2
17 風烈布 伶佐(若者チーム・ラッキー☆アイランド) 2-1 ←俺!
18 松音知 文規(大人チーム・アタックチャンス) 1-1
19 音標 七絵(若者チーム・Q&QT) 1-0
若者チーム勝利決定
残り サルル・グランローブ(大人チーム・ゲスト)

§

「今日の収録分は改編直前の2時間スペシャルだ。俺たちが4月からも『おQ様!』に出演できるかはまだわからない」
最終クイズの収録を前にした休憩中。俺たち若者チーム10人は、スタジオの薄暗い隅で円陣を組んでいる。『ラッキー☆アイランド』のユニットリーダーにして、今日の合同チームでもリーダーを務める卓志が檄を飛ばす。
「この10人でチームを組むのはこれが最後のつもりで、思い出に残る戦い……いや、思い出で終わらない戦いをしよう!」
最終クイズは一問多答式。解答順が後になるほど答の候補が減っていくから、知識力のある人ほど後ろに回すのが定石だけど、勢いをつけるために、トップバッターにもそこそこな人を置きたいもの。
「トップやりたい人、いるか?」
「はい、私がやってもいいですか」
すうっと七絵が手を挙げた。お嬢様育ちでクイズの実力はビミョーだけど、“根拠のない自信”を武器に『Q&QT』のユニットリーダーをやっている中学2年生、俺より一学年上のメガネ娘(撮影用の伊達メガネらしいけど)。
数ヶ月前、『おQ様!』オーディション合格者10人の初顔合わせのとき、これからは互いに名字呼び禁止、敬称禁止、丁寧語禁止と決まったはずだけど、彼女だけは丁寧語を使い続けてる。こちらも心の声ではまだ「七絵さん」と呼びたくなる、いちばん年下のお姉さんだ。
「七絵じゃ無理だ。トップのプレッシャーはきつい」
『ラッキー☆アイランド』の頓別正次が言う。同意の声もあちこちから。
「でも、今日の七絵には何か勝負度胸があるぞ。根拠はないけど」
俺が率直な意見を口にすると、卓志もうなずいた。
「俺も伶佐と同意見だ。七絵の気持ちを尊重するよ」
リーダー卓志の鶴の一声で、トップは七絵に決定した。
「たとえブレーキになっても後ろで挽回する。僕を2番にしてくれ」
「よし、猶人が2番。次は……なるでどうだ?」
「おっけー!」
「アンカーは僕がやる」
「わかった正次。終盤は実力派で固めよう。麻衣と伶佐だな」

かくして、解答順が決まった。意識したわけではないけど、女子ユニット『Q&QT』と男子ユニット『ラッキー☆アイランド』が交互に並んだ。

1 音標 七絵 『Q&QT』 中2
2 目梨泊 猶人 『ラッキー☆アイランド』 高1
3 山碓 なる 『Q&QT』 高3
4 問牧 智和 『ラッキー☆アイランド』 中2
5 栄丘 和実 『Q&QT』  大1
6 斜内 卓志 『ラッキー☆アイランド』 大2
7 沢木 奈々未 『Q&QT』 小6
8 風烈布 伶佐 『ラッキー☆アイランド』 中1 ←俺!
9 乙忠部 麻衣 『Q&QT』 大2
10 頓別 正次 『ラッキー☆アイランド』 高1

いつものことだけど、セット組み替えの時間は押し気味だ。
ひな壇を見上げると、ADさんたちがあわただしく、解答者席にペンタブレットを置きながら名札を取り替えている。「お疲れ様」と声をかけたくなるシーン。
仕事なんだけど、たかが中学生の俺たちのためにそこまでやってくれるADさんを思いながら、いいクイズをやって番組を盛り上げなきゃな、と自分に言い聞かせる。

「5、4、3……」
タイムキーパーさんのカウントダウンと共に、スタジオのモニターがオサマーズさんふたりのアップになる。
「見事勝利しました若者チームが挑戦しますのは、100万円の旅行券をかけた最終クイズ。60秒間に全員がクリアできるのか!?」
一問多答。休憩中に決めた席順で、自分の席のペンタブレットにひとりひとつずつ答えを書いていき、60秒で10人全員が正解すれば旅行券ゲット。制限時間を平均すると6秒でひとりだが、答えが頭に浮かんでいるなら意外と長いもの。今日の若者チームには挑戦経験のあるメンバーもいるが、俺はこれが初挑戦。願わくは、短い答えが書けるような問題が出てほしいんだけど。
オサマーズさんの「旅行券クイズ、問題!」と共に、正面の問題表示用大画面モニターにデーン! と文字が映し出された。
『古代ローマ帝国の皇帝を答えよ』
(第2回に続く)

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