連載小説「ウイニングアンサー」第5回

クイズ芸人小説「ウイニングアンサー」 第5回 2017・10・27発表
作:渡辺 公恵(わたなべ きみえ( or こうけい))

※この作品はフィクションです。実在の人物、番組、設定などとは一切関係ありません。よって、現段階で、だれのモデルが実在のだれかはあまり詮索しないでください(笑)

(あらすじ)中学生にしてクイズ芸人の「俺」こと風烈布伶佐が女子4人と共に新ユニットを結成。ところが伶佐の新衣装はまるで罰ゲームのような女装!これってつまり「シスターズ」だから!?
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と、そんな思いをして昨日撮った写真がこの新聞に載っている。
「もっと見せてくれ!」
俺は覚悟を決めてスポーツ紙をひったくり、問題のカラー写真をまじまじと眺めた。
どこかのアニメのコスプレ集団に見えた。青基調の衣装の女子が4人。そして右端に高く突き出るように、ひとり色違いで赤基調の衣装の、妙なメイクの性別不明者がひとり……。
「思ったほど不自然じゃないな……」
昨日鏡で見たときはドギツいメイクに感じたけれど、印刷された写真にすると映えて見える。大きくてつぶらな目にはアピール力がありそう。女の子そのもの、とはさすがにいえないが、背の高さとショートカットが逆にセクシーな、女の子みたいな男の子に見えた。自分で言うのもなんだけど、ベースが童顔だったのも幸いした。
男の子の髪型でも、帽子でカムフラージュされたおかげでほかの4人との違和感が少ない。
「眉も剃ってんな! 写真といっしょじゃん」
同級生にも気づかれたか。昨日のメイクのとき、眉毛を細く剃られてしまったのだ。いったい、昨日は男のプライドをいくつ失ったことだろう。
「でも、なんでレイちゃんだけ赤なんだ?」
「レイちゃん呼びはやめろ」
そう、俺だけ衣装が赤基調なのが、なおさら目立つ。
確かに俺は赤が好きだしラッキーカラーだ。小学生ではじめて出演したクイズ番組も赤の解答席だった。『「おQ様!!』のオーディションにも赤い服で合格した。初出演の収録に赤いジャケットを着て行ったらディレクターにほめられた。今日放映分の収録のときは赤を着なかったのが失敗だったのかも。
(問題。せっかくだから俺は赤の扉を選ぶ/)
(『デスクリムゾン』! 俺もリアルじゃ知らないゲームだ。さすがにクイズ問題にはならないか)
でもそろいの衣装という形でこうして固められると、自分が自分から離れていってしまいそうで、なんだか怖い。
「それが芸人としてのキャラづくりでしょ」
素人の同級生女子がそう言ってくる。
昨日、山碓なるにも同じことを言われていた。
俺ももう少し自覚が必要なのかな。

§

その日は仕事はオフだった。放課後、俺は電車で3駅の天野川塾へ顔を出す。
ここで机を並べるのは、学校の同級生たちよりは少し大人な高校1年生。高校は学年末の長い休みに入ってるから、みんな私服だ。男子制服の俺ひとりだけが浮いている。
なんでこんなところにいるかといえば、もちろん罰ゲームなはずがなく、将来の大学受験に備えて、英数国くらいは高校生レベルの勉強をやっておけと母親に言われているからだ。
正直言うと、学校よりもここにいるときのほうが落ち着く。年上のクイズ芸人相手の振る舞い方も、この塾で覚えたかもしれない。
高1ともなると、「おQ様!!」の出演者にも年代が近いのだ。

「この話の舞台はロンドンのリージェント通りだな。そうそう、俺の髪型、リーゼントヘアも、この通りが名前の由来なんだぞ」
今日の授業は英語。先生は塾長の大曲さんだ。
大曲塾長のすごいところは、頭を金髪に染めてヤンキーみたいにリーゼントヘアにしているところ。「ヤンキー塾長」として近所では名物になっている。
「なぜ髪型にこの通りの名前がついたか知ってるか? 例えば伶佐」
やっぱり俺が当てられた。教室全体の期待通り、答えるしかない。
「髪型が道の形と同じように曲がっているからですよね」
「正解!」
周りの高校生から拍手が飛んだ。
「リージェント通りは緩やかなカーブになっていて、それに似た髪型だからリーゼントって呼ばれるようになったんだ。みんな、ひとつ勉強になったな」
おまけに塾長、これで灯大卒だからいっそう驚きだ。
「さて、3行目のエクエーター(EQUATOR)、これは赤道のことだな。ところで、スペイン語で赤道のことを何というか、知ってる人いるか? 国の名前になってるぞ」
これまた、教室の空気は俺に答えさせようとしている。それに逆らわず、さっと手を挙げた。
「はい、エクアドルです」
「正解!」
高校生たちから拍手。今度はかけ声も飛ぶ。
「さすがレイちゃん!」
ここでもそれか。どうにでもなれ。
そんなわけで、この塾はクイズの勉強にもなる。例えば、「昔の言葉で○○」とか「英語で○○」とかいった前振りの問題は、高校生レベルの用語を知っていたほうがずっと有利だ。
クイズ的な質問ばかり俺に当てられて、まじめな勉強の質問を答える機会がほとんどないのが、ちょっと残念だけど。

「伶佐くん、ちょっといいかい」
帰り際、大曲塾長が俺を呼び止めた。小教室で二人きりの面談。
「まずは、新ユニット結成おめでとう。新聞で見たけど、なかなかおもしろいスタイルだなあ」
「塾長ほどぶっとんではいませんよ」
「そりゃ俺と比べたら……とにかく、君がクイズ芸人を半年続けてるのは立派だと思う」
「まあ、それほどのことじゃないですよ。でも、こうなれたのは先生の励ましのおかげです」
「君のお母さんから紹介を受けて4年経ったけど、僕も君からはいろいろ学んだよ。ところで……」
塾長が金髪リーゼントに軽く両手を添える。真面目な話に入る前触れだ。
「君は、大学進学希望ってことでいいかな。大学生芸人だってたくさんいるものな」
「はい、もちろんです」
「高校や大学の入試とクイズの両立は、たぶん大丈夫だろう。どんな学部がいいか、ってこともおいとこう。その先だ。大学を出てからもクイズ芸人を続けていくのかな? それとも普通に就職するのかな」
「正直言って、まだ決めきれていないんです」
「いいさ、まだ若いし。でも、実社会はクイズのように答えが用意されているものじゃないんだ。若いころにクイズをやりすぎると、そのギャップで挫折しかねない」
「それ……母さんからも、事務所の社長からも、いろんな人から言われてます。この間辞めたメンバーたち、斜内卓志や頓別正次も、そういう悩みがあったようですし。俺も他人事じゃないと意識しています」
「それならいい。それで、本当の今日の本題なんだけど――AIだ」
先生がリーゼントをもう一度なでる。
「AIって、人工知能ですか? アーティフィシャル・インテリジェンスの」
「御名答。AIは今や囲碁の世界チャンピオンにすら勝ってしまう。いずれ、早押しクイズでも、人間はAIには勝てなくなるだろう」
「それって……どうせAIには勝てないから、クイズなんてもうやめて社会勉強をやれってことですか?」
つい、俺の声が荒くなる。
「違う、ごめん。先生は、だからクイズなんてくだらないって言いたいわけじゃない。AIに勝てないからこそ、クイズが純粋な知力の競技になるはずだって言いたい」
「純粋な、競技?」
「昔、人類はどこに行くにも歩いて行った。急ぐときは走った。必要があったら、跳んだり泳いだりもした。でも近代になって、機械が発達した結果、人類は速く走ったり、遠くまで跳んだり、高く跳んだりする必要がなくなった。だが、それらの技術は実用性から離れて、一部の人間により競技用の特殊能力へと特化されていった。そのような力をもつ者は、競技者、アスリートと呼ばれるようになった。そして、純粋な競技として、より速く、より高く、より強くを目指すようになったんだよな」
「アンリ・ディドン神父ですね」
「そう。クーベルタンじゃないんだ」
「クイズにスポーツジャンルがあるのも、アスリートたちのおかげですよね」
「……それはともかく、話を戻そう。スポーツと同じことが、AIのために起こるだろう。近い将来、人類は早く計算をしたり、大量の知識を記憶したり、難しい漢字を読み書きする必要がなくなるかもしれない。でもそのとき、そのような技術は、頭脳競技用の特殊能力へと特化されるにちがいない。その競技こそ、クイズだよ。そう思わないか?」
「特殊能力ってことは、実社会とクイズとのギャップも、あって当然になりますね。実用性がない知識でもかまわない……」
「そうだ。昔、まだクイズ芸人なんてものがなかったころ、ある有名クイズプレイヤーが、クイズおたくたちを揶揄して言った言葉がある。『やみくもな知識欲の8センチCD-ROM』。人間がCD-ROMの記憶容量に勝てるはずがないのに、それに近づこうとするのは無駄だ、と彼は言いたかったのだろう。でも、これからは違う。人間では8センチCD-ROMに勝てないことがわかれば逆説的に、8センチCD-ROMに近づこうとする欲求が、頭脳競技という形で正当化されるだろう。伶佐くんたちのやっていることは、決して無意味なことじゃない。先生はそう思うよ」
「……なんだか、夢が現実の側にすり寄ってきた気がします」
さすが灯大卒だ。ここまでクイズの未来を肯定的に説明してくれた人は、ほかにはいなかった。
「伶佐くん、クイズ芸人としての次のお仕事はいつだい」
「明日からユニットで強化合宿です。それが明けたら、春の特番の収録です」
「元気で行ってこいよ! 未来の頭脳アスリート! ハーレムも楽しめよ!」
「そう甘くはないですって!」

(第6回に続く)

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連載小説「ウイニングアンサー」第5回” に対して1件のコメントがあります。

  1. watanabe より:

    ラストの1行を編集してもう1行を追加しました。
    ヤンキー塾長に「ハーレム」の件を言わせました。(10/28)

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